きいろいひとりっぷ

デーヴにそっくりな広島人の心の旅

広島ローカル番組に感謝!昔ながらの刃物屋で一生モノの料理包丁を手にした濃い一日

流行のスイーツのカフェ、いかにも美味しそうな定食屋、アイディア満載の雑貨屋などがよくテレビ番組で特集される。でもテレビで見るのはだいたい東京のお店。地方に住む我々にとって、ゴールデンタイムの全国放送で映されるグルメには、ゴクリと喉を鳴らしながらもどこか他人事のような感覚がある。

そんな広島人にとって、地元のあれこれを発見できるありがたい番組が『元就。』。この番組のおかげで、私は一生使える素敵な料理包丁と運命的な出会いを果たした。そんな嬉しい一日の出来事を紹介する。

『元就。』は広島のテレビ局RCCが制作する日曜お昼のローカル情報番組で、広島の「ひと」と「まち」を巡って地域の魅力を再発掘するという内容だ。戦国時代の中国地方の名将・毛利元就(のぬいぐるみ)が家臣であるアンガールズの二人に命じ、二人が街中を“すたこら”練り歩きながら番組が進行する。

自分がよく知っている場所や、行こうと思えば行ける身近な場所のことがテレビで紹介されるのだから、東京の人たちの気分はこんなものかと考え、観賞にも気持ちが入る。

 

そんな今年7月のある放送日、家臣・山根が国道2号線沿いの刃物屋に立ち寄る場面があった。昔ながらの職人さんがいる個人経営店で、大工仕事に用いる珍しい金物も扱っており、全国の職人さんから信頼を寄せられるお店なのだとか。(以下のウェブサイトにある「刃物の大喜」というお店です。)

www.rcc-tv.jp

ちょうど実家帰省から戻ったばかりの私は、久しぶりの自宅の包丁の切れ味の悪さに驚いたばかりだった。このタイミングで番組を見たものだから、因縁を感じずにはいられない。さっそくインターネットで「刃物の大喜」を詳しく調べたところ、長らく更新されていないホームページがあった。

http://www.daiki.shop-site.jp/

全国の刃物職人たちが丹精込めて造り上げた一点ものを仕入れて販売しているのだとわかる。なんとスイスのバイオリン職人もわざわざやって来るのだとか!鍛冶についてのあれこれや、家庭での包丁研ぎのアドバイスなど、刃物への愛情が伝わってくる。刃物職人が慣れないパソコンで一生懸命ホームページを作っている様子が想像される。

刃物の研ぎ直しも受け付けているようで、早速自分のナマクラ料理包丁持って訪ねることにした。

 

お店に入ると、テレビでみたまさにあの白髪のおじさんがいて、有名人にでも会ったような気持ちがした。

さっそく包丁を見せると、「これはそんなに切れ味良くは仕上がらない」と言われた。8年間共に過ごしてきた相棒だったのだが、「鍛冶屋としては、これは一生ものにするほどの品とは言えない。金属の強度が低くて薄く研げないから、すぐにまた切れなくなるよ。それでもいいなら・・・」とのことだった。どんなに愛用してもホームセンターで1500円で購入した包丁。安物であることは一瞬にして見破られた。

 

この際、一生モノの一振りを手に入れてやろうと考え、商品を見せてもらった。小娘が刃物に見出す価値を値踏みされたのか、最初はお手頃価格の品をいろいろ提示されたが、一生モノの名に照らしてピンとくるものがなく、「お店で一番いいものはどれですか?」と聞くと、おじさんはびっくりしていた。

そして出されたのは、鋼の質実剛健なものと、ステンレスの美しい細工のもの。

切れ味の良い包丁は何といっても鋼なのだそうだ。その包丁は高知の腕の良い職人が打った最高級の一品。ただし鋼は錆びやすく、食器用洗剤もNGで基本は水洗い、消毒が必要な場合は熱湯消毒するしかないとのこと。その扱いづらさゆえ人気が無いのか、価格はお手頃の6,500円だった。昔はステンレスなんてないから、どこの家庭でも鋼で、みんな自分で研いでいたんだとおじさんに諭されるも、錆びさせない自信が私には全くなかった。

一方のステンレスは、長めの刀身で装飾が美しく、いかにも高そうだった。実際高く、2万円。ヨーロッパの料理人に大人気のため、品薄で仕入れが困難なのだそうだ。

ヨーロッパといえばドイツブランドのヘンケルやツヴィリングが有名で、私も憧れていた。その製造元は日本だというから、それらを差し置いてわざわざ日本のブランドを探さなくてもいいように思われる。そうおじさんに話すと、おもむろに棚の奥から包丁を取り出したと思ったら、なんとヘンケル!「どんなものかと試しに仕入れてみたけど、堂々と店先に出せるようなもんじゃない」とのこと。おじさんの眼鏡には適わず、ヨーロッパでも鑑る人によっては物足りない品なのかもしれない。

 

良い包丁の見分け方を聞いてみると、素人に見分けられるようなものじゃない、鍛冶職人の品定めを信用してもらうしかない、ということだった。私はおじさんの見立てを信じ、2万円のステンレス包丁を購入した。信じるのはもちろん、「刃物の大喜」と、それに関わる職人たちを応援したくなったのだ。刃物に価値が見出されなくなった現代、それでも鍛冶を愛し、儲かりもしないのに日本の伝統技術を支え続ける人々がいる。彼らが造り上げた逸品に直に触れ、厳かな気持ちになり、ただ敬意を感じるばかりだった。

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持ち帰る前に、おじさんが10万円もするという砥石でこの包丁を研いでくれた。ついでに研ぎ方を実演で見せてくれ、コツをいろいろ教わった。教わったものの、この大切な包丁を自分で研ぐつもりはない。「餅は餅屋」と何より教わったばかりだ。とはいえせっかく習ったので、砥石も一緒に購入し、持ち込んだお古の相棒を自分で研ぐことにした。

 

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ホームページにもあるが、素人が研ぐ場合、砥石に対して刃を立てすぎるため、切れるようにならないことが多いそうだ。縦に置いた砥石に対して約45°に包丁を置き、刃を指で砥石に押さえつけ、背側がコイン1枚分くらい持ち上がったくらいが良い角度。この状態で刃先から刃元まで何分割かに分けて研ぐのだと教わった。

自宅で小一時間粘ったが、研ぐ前と後であまり切れ味が変わらない。。。素人が一時間程度で簡単にできるようになるものではないようで、練習あるのみだ。

ちなみに画像の包丁にある斑点はステンレス特有の錆び。「刃物の大喜」には、この錆びが嘘のように消える研磨剤入り消しゴムがあった。見た目の問題だし、と思い買わなかったが、今になって消してみたくてたまらない。快感に違いない。。。

 

本題の高級ステンレス包丁の切れ味たるやとても鋭く、油断するとまな板を切り込み、スポンジを切り込み、収納ホルダーを切り込むほどだ。

毎年誘ってもらうBBQのイベントで野菜準備係を担当するのだが、今年はこれまで意図して避けてきたかぼちゃを購入した。自宅に戻り、自慢の包丁で5mm程度にスライスすると、なんと、サクサク切れてしまうではないか!あまりの感動に、この秋はハロウィンにかこつけてかぼちゃパーティーでもやろうかという気になるほど舞い上がった。

 

包丁だけでなくあらゆるものに言えると思うが、いいものを手に入れると他のものに興味がなくなる。憧れていたドイツブランドを凌ぐ(と信じている)品を手にした私は、もうキッチン用品売り場で包丁を見ることも、ましてホームセンターの包丁売り場にも行くこともないだろう。買い物はこんな風にすべきだなと一人納得した。

そして、たまには情報番組に乗っかって見知らぬお店に行ってみるのも悪くないと思った。いつもの道、いつものコンビニ、いつものスーパー。忙しいときなど特にいつもの範囲で生活を済ませがちだ。あえて意欲的に新しいスポットを探すのもめんどくさい。そんなとき受動的にテレビから仕入れた情報に乗っかってみると、思いもよらない体験が待っているかもしれない。仕事や家事に追われる毎日のなかで、後々思い出に残るのはやっぱり非日常的な出来事。せっかくなら、後から思い出して楽しい月日を過ごしたいものだ。

 

終わりに・・・
『元就。』のLINEスタンプがあるみたいです。

store.line.me

自画自賛だが、広島弁ってなかなか味があると思う。今年は広島東洋カープもリーグ優勝を果たし、何かと熱い広島。この機会に広島弁スタンプはいかが?(私はLINEやRCCの関係者ではありません。)

『元就。』収録で街中をすたこらするアンガールズの身なりは奇抜だ。田中は祝い酒の酒樽を背負っている。広島にお越しの際、偶然出会ったらラッキーだ。(私もまだ出会ったことはない。)

 

2016.9.16 追記

今日夕方、広島の別のローカルテレビ局TSSで「刃物の大喜」が取り上げられていた!

おじさんは相変らず白髪フサフサで元気そうだった。料理包丁の良し悪しの見分け方を聞かれると、「普通の人が見分けるのは難しいですよ。専門の職人や信頼できる販売店に聞くのがいいですよ」とやっぱり答えていた。この質問され続けてきたんだろうなと思い、ちょっと申し訳なくなった。。

番組によると、おじさんは刃物研ぎの腕前が一流で名が通っているのだとか。番組が用意した錆びっ錆びの包丁を、カミソリのごとく髪の毛が剃れるまでキレッキレに研ぎあげていた。

私は自分が購入した料理包丁の値段や装飾の美しさ、それを造った職人さんにばかりフォーカスしていたけれど、確かに最後におじさんに研いでもらった。一流研ぎ師のおじさんに。あたしの包丁、なんっっっっってスゴイの!!!!

“一流”の名にミーハー丸出しではあるけれど、すでに紹介したとおり、本当によく切れるのだ。料理が楽になったのはもちろん、自分の腕が上がったみたいでいい気分だ。

 

「刃物の大喜」では一日一回ほぼ必ず問い合わせがくるという珍しい金槌を取り扱っているらしい。珍しい理由は、その金槌を造れる職人さんが途絶えてしまったからだとか。絶妙な使い勝手で根強い需要があるのに、大切な技術が失われてしまったのには心を痛めた。

もし刃物を買い替える予定のある方がいるなら、次はぜひ腕利きの職人の良い品を手にしてほしいと思う。鍛冶職人がもっと収入の安定した職業であれば、きっと技術は守れるはず。確かに量販店で買うより高いけれど、絶対死に金にはなりませんから!