【地元人提案】 広島旅行がほんの少し充実するオプショナルルート~平和大通りを歩いてみよう
前回、広島の平和記念公園と宮島を観光する旅行者が、すでにある旅行プランに路面電車移動を組み込むことで旅を少し充実させられるオプショナルルートを紹介した。
davie-in-yellowdave.hatenablog.com
今回はオプショナルルート第2弾として、「平和大通りを歩いてみよう」編をお送りする。
- 広島にとっての平和大通りとは
- 広島観光に平和大通り散策をプラスするには
- ルートA~東の鶴見橋から平和公園を目指す
- ルートB~西の新己斐橋から平和公園を目指す
- 平和大通りはこんなところ
- 平和大通りの四季
広島にとっての平和大通りとは
平和大通りは、原爆の惨禍を乗り越えてきた平和都市広島のシンボルだ。平和大通りにも戦時中や原爆投下時、その後の復興においての深い歴史がある。
広島市中心部は太田川によって形成された三角州にあり、平和大通りはその三角州を東西に横断する約4kmの大通りである。道幅が約100mにもなるため、別名「100m道路」とも呼ばれる。(マップ内 黄緑線部)
戦時中は広島でもアメリカ軍による本土空爆が激しく、建物の延焼を防ぐための防火帯を設けることになった。多くの民家が立ち退きを命じられ、広島市中心部に東西に長い防火帯が作られた。これが今日の平和大通りの基礎になっている。原爆の被害範囲は大きく、この防火帯はあまり意味をなさなかったことがわかっているが、それでもこの砂利道によってわずかに引火を免れた地域から、かろうじて生き残った多くの人々が逃げたと言われている。
戦後の復興計画では、住むにも事欠く市民を立ち退かせてまで100m道路計画を敷くことに多くの批判があったが、今では平和大通りは広島市に欠かせない主要道路であり、重要な経済インフラとなっている。
大通りの両側には、たくさんの樹木が植えられている。かつて焼け野原だったこの場所に、今上空から見れば、一本の緑色の道が横たわっているのである。
1957年(昭和32年)から1958年(昭和33年)にかけて、「廃墟の街に緑を」と世界から樹木が提供され、不毛地帯だった平和大通りは平和都市を象徴するグリーンベルトへと変身を遂げた。「原爆投下後、70年は草木は生えないだろう」と言われてきた広島が、日本全国、そして世界から助けられ、原爆から71年後、私たちが見ているのがこの景色だ。そんな経緯もあり、樹木が自然に枯れる以外の方法で取り除かれるのは禁じられている。
私がこの道を歩くことをおすすめするのは、実際に緑の中を歩き大通りの喧騒を聞くことによって、原爆を生き延び広島を復興させた人々の力強さを感じていただきたいと思うからだ。
広島観光に平和大通り散策をプラスするには
前回の繰り返しになるが、広島旅行といえば原爆ドーム(平和記念公園)と厳島神社(宮島)であり、初めて広島に来る旅行者にこの二つを差し置いておすすめできることはない。よって私が勝手に想定する広島の観光プランは以下の旅程だ。(想定根拠などは前回の記事を参照いただきたい。)
1日目・・・JR広島駅→平和記念公園観光
2日目・・・終日 宮島観光
3日目・・・市内買い物、お好み焼き巡り→JR広島駅
前回は広島駅ー平和公園 間の移動に路面電車を利用することをおすすめしたが、今回もこの区間の移動手段のご紹介で、平和大通りを歩いてみようというご提案だ。
平和公園は平和大通りのおよそ真ん中に位置する。平和記念公園へ向かうには、平和大通りを東から向かうルートと西から向かうルートがある。
ルートA~東の鶴見橋から平和公園を目指す
ルートAは以下のマップに紫色で示す通り、東の鶴見橋から平和公園を目指すルートだ。
このルートへは、広島駅から路面電車5番線(下記路線図の黄緑色)に乗り、4番目の電停「比治山下」で下車する。(所要時間約7分、運賃大人160円、子供80円。)そこから徒歩でさらに南下し、鶴見橋より平和大通りへ入る。比治山下電停から平和公園までは約2km、ゆっくり歩いて約30分だ。
広島電鉄サイトより
前回の記事でご紹介した通り、広島の路面電車はヒロシマ復興のシンボルであり、これに乗ってみるのは大変おすすめである。5番線には古い単車も走っているため、路面電車にも乗れ平和大通りも歩けるという点では一石二鳥と言える。
ただし、平和大通りを味わうという目的を第一に据えるには、ルートAはやや観光地化しすぎているように感じる。道路脇には高級ホテル、高層マンション、オフィスビルが立ち並び、人通りや車の渋滞も多い。歴史を感じながら歩くにはやや慌ただしく、風情がない。
ルートAでは、マップ中の黄色破線部で毎年冬に大規模なイルミネーションが設置される。その名も「ドリミネーション」。今年2016年も11月17日から翌年1月3日まで開催されることになっている。ただし点灯時間は17時30分からなので、順番としては平和公園を回った後でイルミネーションを楽しむのがいいかもしれない。
広島 イルミネーション | ライトアップ事業 ひろしまドリミネーション
ルートB~西の新己斐橋から平和公園を目指す
ルートBは以下のマップに赤色で示す通り、西の新己斐橋から平和公園を目指すルートだ。
このルートへは、広島駅からJR在来線・山陽本線(下り)に乗り換え、3駅目のJR西広島駅で下車する。(所要時間8分、運賃190円。※西広島駅は乗車券「広島市内」の範囲内。)改札を出てまっすぐ歩けば、そのまま新己斐橋から平和大通りに入る。西広島駅から平和公園までは約2.5km、ゆっくり歩いて40分程度。
個人的にはこちらのルートをおすすめする。人通りがまばらでゆっくり景色を見られるし、街並みも観光地というよりは地元の生活が感じられる。原爆と復興の歴史に想いを馳せ、通りの緑を楽しみながらゆっくり歩くにはこちらの方が適している。ただし、新己斐橋を離れると市内中心部までコンビニが無いため、駅か橋周辺のコンビニでトイレを済ませておくことをおすすめする。
平和大通りはこんなところ
筆者はよくルートBを通って市内中心まで出るので、そこで見られる平和大通りの様子をご紹介する。
まずは新己斐橋からの風景。
前述の通り、平和大通りは太田川が形成した三角州を横断する。そのため道中は何度か橋を渡ることになり、川沿いの眺めがなかなか良い。中でも、新己斐橋からの眺めは絶景だ。
新己斐橋からしばらくは、路面電車と並行する。歩きながら昔懐かしさを感じる古い単車を見かける。前回の記事でご紹介した通り、広電西広島駅から平和公園を目指すとこの路面を走ることになる。
緑の中にゆっくりと時間を過ごすためのベンチがいくつもあるので、道中の休憩は快適だ。樹木が自然に枯れる以外の方法で取り除かれるのは禁じられているのはすでにご説明した通り。くれぐれも草木を傷めるようなことのないようご注意いただきたい。
こんな写真を掲載すると、空気の澄んだ静かな場所での森林浴を想像されるかもしれないが、すぐ側は自動車通り。常に車の騒音はあるし、空気が澄んでいるわけでもないのでご承知おきいただきたい。
道中はさまざまな植物を目にするし、スズメや鳩などの鳥、蝶などの昆虫も多く、生態系の存在を感じる。当然夏は蚊も多いため、夏に来られる方は虫よけスプレーは必携だ。夕方は犬の散歩をする人も多く、かわいい犬に出会うこともしばしばだ。
謎のキノコ
ザクロ
道路脇にはマンションも多く、緑地内にはたびたびアスレチックが登場する。ここで小さな子供を遊ばせる日常は素敵だろうなと想像してしまう。
緑にあふれ市民の生活にも密接な平和大通りだが、平和都市の象徴として存在するこの通りには、慰霊碑も多い。Wikipediaによると、緑地帯には著名な造形家がデザインした慰霊碑やモニュメント・石灯籠が83箇所にも存在するという。
これは生協病院の前に設置された慰霊碑。
“天を抱くがごとく 両手をさしのべし 死体のなかに まだ生きるあり”
戦後70年以上経った今でも、原爆症で苦しむ方々がいる。この生協病院でも原爆症の治療を受けている方がいるのだろうかと想像しながら、建物を見上げた。
こちらは随所で見かける石燈籠。全部で32基あるそうだ。一つ一つが異なるデザインで、それぞれの由来が書かれたプレートが添えられている。例えば左の大きな写真の燈籠の説明は以下の通り。
“大仏殿形石燈籠
この石燈籠は、わが国最古の面影をとどめる。東大寺仏殿前の金銅燈籠を原型としたものである。燈籠は元来、仏に燈明を献ずるためのもので、古い時代には仏殿の正面に一基置くことが原則とされていた。”
別のサイトによると、これは「平和の道しるべとなって平和の灯運動の輪を広げる機能を果たすことを期待して」寄贈されたものだそうだ。(引用元→歴史さんぽ: 平和大通り緑地帯の石灯籠)
この他にも緑地帯のいたるところに記念碑や慰霊碑がある。
緑の木々の中で、平和への祈りを含んだ広島の空気を感じながら歩くこと約40分。平和公園が左手に見えてくる。
平和公園南側正面には噴水があり厳かな空間が広がっているため、見落として通り過ぎる心配はないと思う。天皇陛下やその他の要人が平和公園を訪問されるときはだいたい南側から入られる。オバマ大統領も南側から入った。それを知った上でこの景色を見ると、また違った感慨もあるのではないかと思う。
散策して疲れたら、平和公園内におしゃれなオープンテラスカフェがあるので一息入れるのもいいかもしれない。(外国からの観光客で混んでいることも多いが。)
ちなみに平和公園南側から大通りを挟んだ反対側に、イタリアンレストランがある。
前に一度、上司に連れて来ていただいたのだが、パスタがとても美味しかった。上司の話では、イタリア人のお客さんを連れて来ても満足してもらえるそうだ。広島と言えばお好み焼き、牡蠣、穴子などが有名だが、胃が許せばこちらもおすすめだ。
平和大通りの四季
平和大通りにはいたるところに花壇があり、通年手入れされている。特に春はとても美しい。ゴールデンウィークにはフラワーフェスティバルが開催され、博多どんたくと並んで人気がある。
夏は草木が生い茂り、緑のトンネルの中で蝉しぐれが響く。
その緑も秋になれば色づき、散策にも最高の季節となる。毎年11月3日(文化の日)には平和マラソンが開催される。
そして冬にはイルミネーション。
ここには季節を問わず素敵な景色やイベントがある。
冬は緑地帯と呼ぶには厳しいが、それ以外の季節にぜひ一度、かつて防火帯だったことを想いながら平和大通りを歩いてみていただきたい。それにより、広島観光をほんの少し充実したものにしていただけたらと思う。